「イラッシャイマセー!」
「東京入国管理局密着24時!」とタイトルが付けられた
不法滞在の東南アジア女性を一斉摘発する特別TV番組で
入管職員が踏み込んだ時に客と勘違いをして
挨拶をするあのアクセントの声が聞こえる。
「なんかヤバイところに来たのかな?」
と思いながらシートへと案内をされる。
南野は日本人女性が接客している
スナックやパブには行ったことはあるのだが
いわゆるフィリピンパブと呼ばれる所に足を踏み入れたのは
この時が始めてであった。
「クヤ~(お兄さん) ヒサシブリナァ~!」
ステージ・ドアの常連になっている岡崎に声をかけながら
4人のフィリピン人ホステスがボックスシートにやって来た。
「コンバンワー ネリーデス ハジメマシテェー」
と1人のフィリピーナが握手をしながら挨拶をする。
少しヘンなアクセントの日本語ではあるが
なかなか可愛らしい感じがする。
南野は方言で喋る女の子であっても愛らしく思う。
入院していた頃、青森県出身の女性看護士が
方言丸出しで喋っていたのを他の入院患者は囃し立てていたが
南野は素直に「そういうのって可愛いじゃんねぇ?」とかばったことがある。
ま、他の入院患者でも、そう思っていた者もいたとは思うのだが・・・
フィリピーナと話をするのは、これが初めてではない。
知人が興したばかりの警備会社で
南野が事務と現場の仕事をしていた頃。
2人のフィリピン人女性が交通誘導員として
採用されたことがあり、日本人よりマジメに
そして楽しそうに仕事をしている姿に感心していたこともあった。
「名前ハ ナンデスカ? ドコ スンデマスカ? オシゴト ナンデスカ?」
かなり日本語が上手い。それらの質問に答える・・・
それから先に出る言葉が無い。 話題が無さ過ぎるのである。
「何か共通の話題を・・・」
とは考えるのだが、なかなか見つけることが出来ない。
「オトナシイナー ゲンキ ナイカ?」
そんなことまで言われる始末。
「いや、そんなことはないよ。なんかね。
キレイな女の子がいると緊張しちゃってねぇ・・・」
すると、すぐさま「オセジ ウマイナ~」との反応が返ってくる。
まぁ、確かにお世辞ではあるのだが・・・
映画のことが頭に浮かんだ。となりに座っているネリーと
フィリピンでも上映しているであろう
ハリウッド映画の話題で間を繋いでいると
フィリピーナがある一定間隔で交代し
その度に挨拶と自己紹介が繰り返される。
ダーマと名乗ったフィリピーナが座った。
スペイン系の混血であるメスティーサのフィリピーナだ。
それまではいわゆるカユマンギと称される
フィリピンの現地系の女の子が南野のところに回って来ていたのである。
「この子・・・ かわいいなぁ」
と後で思い出したのだが、某アイドルのバックダンサーとして踊っていた
2人組の一人に似ていた。
烏龍茶を飲みながら前に着いていた娘とそんなに大差ない話や
カラオケを歌いながら時間を過ごしているうちに閉店時間を迎えた。
会計を済ませて店を出てインテグラを駐車している場所に向かう。